結花の備忘録

低血圧なにわか読書家の備忘録。

森晶麿のすすめ《初級編》

こんにちは!久々の更新です。

 

今回は作家さん紹介をしたいと思います。

最近わたしが注目している作家さんなのですが、森晶麿(もりあきまろ)さんという方をご存知ですか?

 

森 晶麿(2011~)

森 晶麿(もり あきまろ、1979年3月5日 - )は、日本の小説家推理作家。「虚構家」を自称している。静岡県浜松市出身、香川県高松市在住。早稲田大学第一文学部卒業、日本大学大学院芸術学研究科博士前期課程修了。

ライターとして漫画脚本などを手掛けながら小説の執筆活動を続ける。2011年、『奥ノ細道・オブ・ザ・デッド』で第3回日本タイトルだけ大賞を、『黒猫の遊歩あるいは美学講義』で第1回アガサ・クリスティー賞を受賞する。同作に収録されている短編「壁と模倣」の原型となった作品は2004年頃に、別の賞の最終選考に残ったことがある。(Wikipediaより)

 

鉄板ものから斬新な実験作まで著作のジャンルは多岐に渡っていて、はじめて読んだ本によっては驚く可能性も無きにしも非ず(作品ごとにかなり雰囲気が違う)という、いい意味で独特な作家さんです。


最初にどれを選ぶかは若干難しいですが、一度《森ワールド》にハマると、その沼から抜け出せなくなるほどおもしろい! と評判のシリーズなどもたくさん執筆されているので、ぜひもっとたくさんの人に読んで欲しい、今イチオシの作家さんです。そんな森さんの著作の中でも、今回ははじめに読む作品として特におすすめしたいものを紹介していきます。

黒猫シリーズ

黒猫の遊歩あるいは美学講義 (ハヤカワ文庫JA)

黒猫の遊歩あるいは美学講義 (ハヤカワ文庫JA)

 

【あらすじ】でたらめな地図に隠された意味、しゃべる壁に隔てられた青年、川に振りかけられた香水、現れた住職と失踪した研究者、頭蓋骨を探す映画監督、楽器なしで奏でられる音楽… 日常に潜む、幻想と現実が交差する瞬間。美学・芸術学を専門とする若き大学教授、通称「黒猫」と、彼の「付き人」をつとめる大学院生は、美学とエドガー・アラン・ポオの講義を通してその謎を解き明かしてゆく。(amazonより)

 

〈おすすめポイント〉

・美学を扱った知的な文章に惹き込まれる

・黒猫と付き人の曖昧で絶妙な距離感

 

著者の代表作とも言える《黒猫シリーズ》と呼ばれる作品。

黒猫の美学講義やポオ作品の解釈・解説は、美学の専門用語も多く小難しいですが、それさえもぐいぐい読ませる、全体を通して魅力溢れる知的な文章(なんだか頭がよくなったように思えるほど)が見事。そして、作品の主題でもある黒猫の論理の組み立て方には、思わず「成る程」と感嘆。

特に注目してもらいたいのが、美学という観点から推理を展開する構成。これはとても新鮮で、黒猫の推理過程の優雅さに思わずため息。まさに『黒猫の遊歩』という題名がしっくり来る、ラストまで上品な雰囲気の作品です。

もちろん、前述もしたように、黒猫と付き人ふたりの距離感も絶妙! あまりのじれったさに床を転がること(森ファンの中ではこのもどかしい感じを「ゴロンゴロン」と表現)間違いなし。

・・・ただ、デビュー作ということもあり、今回のテーマであるはじめに読む作品としては取っ付きにくいと感じてしまうかも。書店で『遊歩』の最初の数ページをパラパラとめくってみて「んん、これはちと小難しそうだぞ」と思われた方には、彼らが学生のころのお話が詰まった、序章とでも言うべき『黒猫の刹那あるいは卒論指導』がオススメ。

黒猫の刹那あるいは卒論指導 (ハヤカワ文庫JA)

黒猫の刹那あるいは卒論指導 (ハヤカワ文庫JA)

 

こちらは『遊歩』よりかなり読みやすいと思うので「難しい話を読むと頭がこんがらがります」という方は特に(わたしも同じ)はじめにこちらを読むと世界に入りやすくなるはず。

文庫版も随時刊行されているので、続刊もぜひ!

 

花酔いロジック

花酔いロジック  坂月蝶子の謎と酔理 (角川文庫)

花酔いロジック 坂月蝶子の謎と酔理 (角川文庫)

 

【あらすじ】戸山大学に入学した坂月蝶子は痩身の文学青年・神酒島先輩から声をかけられ、“スイ研”―酔理研究会に入ることに。そこで目にしたのは、数々の酒と恋と、日常の謎。新歓コンパや野球交流戦、月愛でる学園祭に雪の冬合宿と、移ろう四季の中で出合った謎を神酒島はするすると解いていく。酒に酔えない体質の蝶子だが、神酒島が読み解く謎の理は不思議な酔いの余韻を残していき…。切なくてじれったい、青春恋愛ミステリ!(amazonより)

 

〈おすすめポイント〉

モラトリアム系青春「酔」理小説

 

理研究会に入会するつもりが、入会したのは「酔」理研究会だった!? という気になる導入部からはじまる、テンポのよい作品。

 

黒猫シリーズと同じ大学が舞台で、奇妙な音頭と共に酒宴を開催、のちに屍を量産する「酔」理研究会、通称スイ研。設定からして面白すぎます。お酒が好きな方はもちろん、飲めない方や苦手な方でも、スイ研のメンバーと一緒に馬鹿騒ぎできる(褒めてる)最後まで楽しいお話です。ゆるっと手軽に大学生のぐだっとしたモラトリアム体験ができます(褒めてる)

 

あらすじにはミステリとありますが、ミステリ要素は控えめ。それよりも、四季の景色とお酒を中心に進むさらさらとした文章と物語に酔いしれていただきたいかな、と。いろいろな「酔い」が描かれていて、読後感がとてもよい。だじゃれではなく!

 

そして、とにかく神酒島先輩が(あほな部分もあるけれど)かっこいいので、蝶子とのじれったい恋路にも注目。床や机の代わりに何か叩けるものを用意しておきましょう。

 

アドカレ!

アドカレ! 戸山大学広告代理店の挑戦 (富士見L文庫)

アドカレ! 戸山大学広告代理店の挑戦 (富士見L文庫)

 

【あらすじ】名コピーライターだった亡き父と同じ道を目指す私は、父の母校戸山大学に入学した。意気揚々と広告概論を受講するも、中身は期待外れ、広告研究サークルは言わずもがな…。そんなとき、目に飛び込んできた学生だけの広告代理店“アド・カレッジ”の求人看板。訪れた私に、バードと名乗る代表取締役はいきなり採用試験を言い渡した。「豆腐屋のキャッチコピーを提案すること、期限は三日」豆腐屋では強面の店主が待ち構えていて…? 広告業界希望者必見の青春物語。(amazonより)

 

〈おすすめポイント〉

・大学生起業家と個性的な仲間たち

広告業界の実情と「私」の成長物語

 

同じ《戸山大学》シリーズでもう一冊。もともとウェブ連載だったので他作品よりも章立てが細かく、とにかく読みやすいです。はじめに読む本にはうってつけ。

 

コピーライターというと、漠然と言葉を使って広告を考える人かなあ、などと思っていたのですが、これがなんとも奥が深い! 途中、思わず唸りました。さらりと読めるのに、爽やかで濃密なお仕事小説。お仕事小説好きにはたまりません。

 

特に、森さん自身がもともと不動産関連のコピーライターをつとめていらしたこともあり、不動産のコピーを考える場面はとてもリアル。広告業界を目指している学生さんにもおすすめ。短いことばに詰め込まれた、コピーの力を感じます。

 

偽恋愛小説家

偽恋愛小説家

偽恋愛小説家

 

 【あらすじ】「第1回 晴雲ラブンガク大賞」を受賞して、華々しく文壇にデビューした恋愛小説化・夢宮宇多。その勢いを買われてか、恋愛小説のようにロマンティックな体験談を持つ女性を実際に訪ねて話を聞く、というネットテレビ番組のホスト役の仕事が入ってくる。担当編集・井上月子の説得で仕事を請けることとなったのだが、そこで出会った女性は、まさに現代のシンデレラのようなエピソードを持つ女性であった。しかし、夢宮宇多は話を聞くうちにエピソードの隠された真実に気づいていく……。 その一方で、夢宮宇多の受賞作は亡くなった彼の幼馴染みが書いたのではないか、という疑惑が浮上し、物語は意外な展開を見せはじめるが―。(amazonより)

 

〈おすすめポイント〉

・ミステリ×恋愛×おとぎ話

・謎めいた夢センセと「彼女」の行方

 

さて、最後におすすめするのはこちら。実は、わたしはこの作品から森作品の沼にハマっていきました。ものの見事にずぶずぶと。いちばんはじめに紹介してもよかったのですが、あえて最後に。好きなものは最後にとっておくタイプです。

 

作家の夢宮宇多、通称「夢センセ」が童話作品をぶった斬・・・こほん、斬新に解釈を加えていくという物語。あの童話もこの童話も、夢センセの手にかかれば違う側面から切り込んでい・・・こほん、楽しむことができます。

 

さらに、章のタイトルにも注目!

第一話 シンデレラの残り香

第二話 眠り姫の目覚め

第三話 人魚姫の泡沫

第四話 美女は野獣の名を呼ばない

もうこのタイトルだけみて気になる方もいるのではないでしょうか? 章の名前がどれも素敵で興味をそそられます。シンデレラや人魚姫などの童話が好きな方、逆に苦手な方、嫌いな方。どんなひとにもおすすめしたい作品です。

 

恋愛小説かと思えばミステリ要素もあり、おとぎ話とのリンクもあり。欲張りにいろいろ楽しめて、まさに「森晶麿とはなんぞや」というのがズバッとわかります。これは本当におすすめ。

 

ちなみに、こちら続/俗編も発売中ですので、こちらが気に入った方はぜひ続きも読んでみてくださいませ。もちろん引き続きおもしろいです。前作よりも糖度が高くなっております(大声)

俗・偽恋愛小説家

俗・偽恋愛小説家

 

 

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長くなってしまいましたが、森晶麿作品の《初級編》としてはこんな感じ。

作品によって雰囲気が異なり、新作が出るたびに「今度はどんな作風なんだろう」とドキドキさせてくれる、魅力的な作家さんです。ちなみに《上級編》も編集中です。ふふ。何はともあれ、ぜひみなさまも「森ワールド」にハマりましょう